数学とか語学とか楽しいよね

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【ドイツ語】"Gretchen am Spinnrade"(糸をつむぐグレートヒェン)の解説をしてみます

Goetheゲーテ)の"Faust"(ファウスト)より詩、"Gretchen am Spinnrade"(糸をつむぐグレートヒェン)の解説をしてみます。これも"Erlkönig"(魔王)と同じく、Schubertシューベルト)が歌曲(リート)にしてくれています。憂いを帯びた名曲です。


Wikipediaによると「シューベルトにとって初めてのゲーテ歌曲であるとともに、この曲を以てドイツリートが誕生した、と評される。(中略)グレートヒェンは紡ぎ車を回しつつ、ファウストとその口車を思い浮かべて口ずさんでいる。ピアノ伴奏の反復リズムは、歌詞に応じて紡ぎ車が速まったり遅くなったりするさまや、グレートヒェンの気も狂わんばかりの昂奮を描写し、恋する娘の動揺や、悪魔の誘惑を効果的に暗示している。」とのことです。


ファウストに恋するグレートヒェンの苦悩が描写されています。韻を踏んでいることに注意して読んでいきましょう。


(原文1)
Meine Ruh' ist hin,
mein Herz ist schwer;
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

(訳)
私の安らぎは去り、
心は重い。
私が安らぎを見出すことは決してない
二度と。

(解説)
"Ruh'"は"Ruhe"です。よく韻文では"e"が省略されます。


(原文2)
Wo ich ihn nicht hab',
ist mir das Grab,
die ganze Welt
ist mir vergällt.

(訳)
彼がいない所は、
私にとって墓場、
世界のすべてが
だいなし。

(解説)
"hab'"は"habe"です。
"wo"は「~するところではどこであれ」という用法があります。詳しくは信岡資生、藤井啓行著『中級ドイツ語の研究』のp.46-47を見てください。そこの例文には、"Wo viel Licht ist, ist starker Schatten!"(光の多きところ影も濃い。(Goethe))とあります。
"vergällen"は「だいなしにする」です。


(原文3)
Mein armer Kopf
ist mir verrückt,
meiner armer Sinn
ist mir zerstückt.

(訳)
私のかわいそうな頭は
おかしくなり、
私のかわいそうな心は
粉々になった。

(解説)
"verrückt"は「気の狂った」です。
"zerstückt"は「粉々になった」です。


(原文4)
Meine Ruh' ist hin,
mein Herz ist schwer,
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

(訳)
(原文1)の繰り返し。


(原文5)
Nach ihm nur schau' ich
zum Fenster hinaus,
nach ihm nur geh' ich
aus dem Haus.

(訳)
ただ彼を追って
窓の向こうを見る、
ただ彼を追って
外へ出かける。

(解説)
"schau'"は"schaue"です。
"geh'"は"gehe"です。


(原文6)
Sein hoher Gang,
sein edle Gestalt,
seines Mundes Lächeln,
seiner Augen Gewalt,

(訳)
彼の立派な歩き方、
彼の尊い姿、
彼の口元の笑み、
彼の眼の力、


(原文7)
Und seiner Rede
Zauberfluß,
Sein Händedruck,
und ach! sein Kuß!

(訳)
そして彼のお話の
魔法のような流れ、
彼の手を握る力、
そして、ああ!彼のキス!

(解説)
"seiner Rede"は2格で"Zauberfluß"にかかります。


(原文8)
Meine Ruh' ist hin,
mein Herz ist schwer,
ich finde sie nimmer
und nimmermehr.

(訳)
(原文1)の繰り返し


(原文9)
Mein Busen drängt
sich nach ihm hin,
Ach dürft' ich fassen
und halten ihn,

(訳)
私の胸は
彼を求めて押し進む、
ああ、彼を捕まえて
抱きしめてよいならば、

(解説)
"der Busen"は「(女性の)胸」です。
"dürft'"は"dürfte"です。接続法です。
"dürft' ich fassen und halten ihn"は"Wenn ich ihn fassen und halten dürfte"の倒置ではないでしょうか?(厳密に言うと次の"Und küssen ihn, so wie ich wollte"まで"dürfte"に含まれると思います)つまり「彼を捕まえて、抱きしめてもよいならば」。


(原文10)
Und küssen ihn,
so wie ich wollt',
an seinen Küssen
Vergehen sollt'!

(訳)
そして彼に、
望むままにキスしてもよいならば、
彼とキスしながら
消えてしまいたい!

(解説)
なので全体としては"Wenn ich ihn fassen, halten und, so wie ich wollte, küssen dürfte"となるのではないでしょうか?
"wollt'"は"wollte"です。接続法です。
"sollt'"は"sollte"です。接続法です。"ich"の省略です。
"vergehen"は「消え去る」です。


ドイツ語を勉強するとこんなにも美しいリートを楽しむことができるようになります!語学とはかくも素晴らしいものなのです。


参考
糸をつむぐグレートヒェン - Wikipedia

中級ドイツ語の研究 (1972年)

中級ドイツ語の研究 (1972年)

「ファウスト第1部」を読む

「ファウスト第1部」を読む

ファウスト』の名場面に関して、ドイツ語と日本語が対訳になっておりとても便利です。p.144-147に『糸をつむぐグレートヒェン』が載っています。