【ナヴィエ・ストークス方程式】岡本久『巨大渦の安定性―2次元非圧縮高レイノルズ数の流れの中で』抜書
はじめに
今回は岡本久『巨大渦の安定性―2次元非圧縮高レイノルズ数の流れの中で』から抜き書きしていこうとおもいます。「抜書」の部分は下段や文中のカッコの中以外全て抜き書きになっています。ご注意ください。「アイデア」は自分の言葉で内容を書き直しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri/71/8/71_526/_pdf/-char/ja
抜書
2 次元には 3 次元とは異なる特有の現象(例えば乱流の逆カスケードなど)があり,独自のおもしろさがある.
中でも 2 次元における大規模渦の存在が厄介な問題である.それは非常にしばしば発生し,しかも長時間にわたって維持されるけれども,普遍的な現象と言えるほどの法則性が見つかっていない(ようだ).
ここでいう大規模渦とは,一言で言えば,流線のトポロジーが単純である解である.
逆カスケード:1967年にロバート・クライクナンが 2 次元乱流について理論的に予想したもので,これが正しいとすると,大きな渦が自発的に表れてくることが自然に納得される.
統計力学の理論を乱流現象にあてはめるとき,大規模渦は厄介者である.性質の似通ったものが大量にあることが統計力学の前提であるから,典型的な大きさと同程度の渦が 1 個だけ存在しているというのは好ましくない.
筆者らの研究は,(相当に多くの場合に)どんなにレイノルズ数を大きくしても大規模渦が不可避であることを強く示唆する.しかも,それが,定常な流れという,一番単純なものの中に見つかるのである.
R(レイノルズ数)を大きくしていくとより複雑なパターンがみられるようになる. これいわゆる分岐である.分岐(bifurcation)とは,多分 ポアンカレが最初に使った言葉ではないかと思われるが, それまで一つしかなかった平衡状態が二つ(以上)になることからこういう言葉が選ばれたのであろう.
乱流もこうした分岐で記述し得るであろう.著名な物理学者ランダウはこういうふうに述べた.力学系理論を流体力学に当てはめた説明としては古い部類に属するこの予想は「ランダウのシナリオ」として流体力学では有名である.
定常解は,レイノルズ数が何であっても少なくとも1 個は存在する.3) これはルレイ(J. Leray)が 1934 年に証明した定理であり,ある意味で驚くべき定理である.なぜならば,レイノルズ数が大きいときには流れは乱流となり,定常状態が発現することは普通はないからである.
ラジゼンスカヤ(O. Ladyzhenskaya)さんから直接聞いた話によると,彼女がこの定理を説明したとき,すでに数学的な証明があるにもかかわらず,ランダウもコルモゴロフもアーノルドも信用しなかったということなので,こうした鋭敏な頭脳にとっても直観に反するものだったのだろう.
もちろん,存在するといっても,多くの場合にそれは不安定であり,実験で見ることは難しい.しかし,ある場合 にはレイノルズ数をいくら大きくしても安定性を失わない定常解というのもあるのである(上述).以下に述べる大 きな渦も,レイノルズ数が大きいにもかかわらずしばしば安定である.
2 次元乱流と 3 次元乱流の大きな違いは,2 次元では乱流状態になっても大きな構造の渦が存在することである.それはレイノルズ数をいくら大きくしてみてもつぶれることはない.一方,3 次元乱流では,大きな構造が見られることもあるが,一様で等方的な乱流があるとすれば渦は次第に壊れていってどんどん小さな渦に変遷していくものと思われている.こうした現象はカスケード現象と呼ばれている.3 次元乱流ではカスケードは 1 方向のみである:大きなスケールから小さなスケールへ向かっていく.2 次元乱流ではカスケードは 2 方向に存在する.小さいスケールへとカスケードし,かつ大きなスケールへもカスケードする.これは1967 年にクライクナン(R. Kraichnan)が理論的に予想したことで,現在では現象論的な正しさが確認されている.
レイノルズ数が大きいとき,定常解もまた数多く存在し得るという事実である.
《外力が何であっても,レイノルズ数が十分大きければ,(時間変数については複雑かもしれないが)空間変数について単純に見える(流線のトポロジーが単純であるという意味で)解が少なくとも一つはある》という予想が一番無難であろう.
2 次元乱流では普遍的な法則が成り立ちにくいと言われている.3 次元のように小さなスケールでの普遍的な性質というのが期待できず,代わりに,大きな渦が小さな渦と相互作用するために,どこでも成り立つような簡単な法則が期待できないというのである.