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【ドイツ語】"Erlkönig"(魔王)の解説をしてみます

Goetheゲーテ)の詩、"Erlkönig"(魔王)の解説をしてみます。もちろんドイツ語で書かれています。みなさんはおそらくGoetheの詩というよりはSchubertシューベルト)の歌曲(リート)として、中学校の音楽の時間に習ったのではないでしょうか?

歌っているのはDietrich Fischer-Dieskau(ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ)です。深みのある良い声です。私が中学校で習ったときは、なんと日本語で聞かされました!なんということでしょう!"Mein Vater, mein Vater"ではなく「お父さん、お父さん」ときたものです。台無しでした。なんとしてもドイツ語で鑑賞すべきでしょう。


閑話休題。詩なので韻を踏んでいることに注意しましょう。例えば最初の部分だと、"Wind"と"Kind"、"Arm"と"warm"と言った具合です。私も全然ドイツ語の詩の韻律はわかりませんが、まあこれだけ押さえておきましょう。ではやっていきましょう。


(原文1)
Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?
Es ist der Vater mit seinem Kind;
Er hat den Knaben wohl in dem Arm,
Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.


こんな夜更けに風吹く中、馬で駆けていくのは誰か?
それは子を抱えた父だ。
彼は子供をしっかりと抱えて、
しっかりと暖かく包む。

(解説)
"wohl"と"sicher"をどちらも「しっかりと」と訳しています。適切な単語が浮かばなかったのです。父は子をしっかりと抱きかかえているのです。


(原文2)
"Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?" –
"Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?
Den Erlenkönig mit Kron' und Schweif?" –
"Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif."

(訳)
「息子よ、何故そんなに不安そうに顔を隠すのか?」
「お父さん、魔王が見えないの?
冠を被り長い裾の服を着た魔王が。」
「息子よ、あれは縞のようになった霧だ。」

(解説)
ここの"was"は"warum"で「何故」という意味です。Goetheの詩は古いドイツ語なのでこうした用法があるみたいです。
"bang"は"bange"です。古い形です。
"Erlkönig"は題名の通り「魔王」です。
"Kron'"は"Krone"です。詩だと韻律の関係でよく語尾"e"は落ちるみたいです。"'"は省略したことを表す記号です。
"Erlenkönig"は"Erlkönig"のことです。詩だと韻律の関係で付いたりするみたいです。
"der Schweif"は「長い裾」。
"der Streif"は「縞」。


(原文3)
"Du liebes Kind, komm, geh mit mir!
Gar schöne Spiele spiel' ich mit dir;
Manch' bunte Blumen sind an dem Strand,
Meine Mutter hat manch gülden Gewand." –

(訳)
「かわいい坊や、おいで、一緒に行こう!
とてもすてきな遊びを私としよう。
たくさんの色とりどりの花々が浜辺に咲いているよ、
私のお母さんが金色の服を持っているよ。」

(解説)
"komm"は"kommen"の命令形、"geh"は"gehen"の命令形。
"spiel'"は"spiele"の省略。
"das Gewand"は「衣装」。


(原文4)
"Mein Vater, mein Vater, und hörest du nicht,
Was Erlenkönig mir leise verspricht?" –
"Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind;
In dürren Blättern säuselt der Wind." –

(訳)
「お父さん、お父さん、聞こえないの、
魔王が小さい声で約束するのが?」
「落ち着きなさい、落ち着きなさい、我が子よ。
枯葉の中を風がざわざわいっているのだよ。」

(解説)
"sei"は"sein"の命令形、"bleibe"は"bleiben"の命令形。
"dürr"は「乾いた」。
"säuseln"は自動詞で「木の葉がざわざわ音を立てる」。


(原文5)
"Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?
Meine Töchter sollen dich warten schön;
Meine Töchter führen den nächtlichen Reihn,
Und wiegen und tanzen und singen dich ein." –

(訳)
「かわいい坊や、お前は私と行かないかい?
私の娘達にお前の面倒を見させよう。
私の娘達は夜に輪舞をやるんだよ。
そして踊って歌ってお前を寝付かせてくれるよ。」

(解説)
"sollen"は魔王の意志。
"warten"は「世話をする」という意味。
"der Reihn"は「輪舞」。Reihn – Wiktionaryによると、"alter Rundtanz, bei dem eine größere Anzahl von Tänzern einem Vortänzer in schreitender oder hüpfender Weise folgt; der Tanz wird von Gesang begleitet"だそうです。
"einwiegen"は分離動詞で「寝付かせる」。einwiegen - English missing: English ⇔ German Forums - leo.orgを参照のこと。"dich"は"einwiegen"だけの目的語で"tanzen"と"singen"は自動詞ではないでしょうか?


(原文6)
"Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort
Erlkönigs Töchter am düstern Ort?" –
"Mein Sohn, mein Sohn, ich seh' es genau:
Es scheinen die alten Weiden so grau. –"

(訳)
「お父さん、お父さん、見えないの
魔王の娘達がそこの暗がりにいるのが?」
「息子よ、息子よ、私は確かに見えるよ、
老いた柳がそう見えるほど灰色なのが。」

(解説)
"düster"は「薄暗い」。
"seh'"は"sehe"の省略。
3行目の"es"は4行目全体を受けている。
"die Weide"は「柳」。
"es scheint"は「のように見える」。"es"は仮主語。ただしここでは複数形"alten Weiden"を受けているので動詞も"scheinen"と複数になっている。


(原文7)
"Ich liebe dich, mich reizt deine schöne Gestalt;
Und bist du nicht willig, so brauch' ich Gewalt." –
"Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!
Erlkönig hat mir ein Leids getan!" –

(訳)
「私はお前のことが好きだよ、お前の美しい姿を見ていると居ても立ってもいられやしない。
それでお前が嫌なら、暴力に訴えるしかないな!」
「お父さん、お父さん、魔王がぼくをつかんだ!
魔王がぼくにひどいことをした!」

(解説)
"bist du nicht willig"は"Wenn du nicht willg bist"の"wenn"省略ではないでしょうか?副文と接続詞
"brauch'"は"brauche"の省略。
"Leids"は"Leid"の古形のようです。以下のリンクがめっちゃ面白いです。"Leids"? - Erlkönig hat mir ein Leids getan! (Goethe) - Sprachlabor: Englisch ⇔ Deutsch Forum - leo.org


(原文8)
Dem Vater grauset's; er reitet geschwind,
Er hält in Armen das ächzende Kind,
Erreicht den Hof mit Mühe und Not;
In seinen Armen das Kind war tot.

(訳)
父はぞっとして、馬を速く駆けさせる、
彼は腕にうめく子を抱え、
やっとのことで邸宅へと辿り着く。
彼の腕の中でその子は死んでいた。

(解説)
"grauset's"は"es graust"で「ぞっとする」。元の動詞は"grausen"。
"ächzende"は"ächzen"「うめく」の現在分詞。
"Mühe und Not"は「やっとのことで」。
4行目は語順が変則的です。2位に動詞がきていません。韻律によるものか、表現上の効果をねらったものか、どちらでしょうか?


ちなみに冒頭の動画では"r"は巻き舌で発音しています。